芝園団地に『AKIRA』の世界観を感じていた少年
2018年、「芝園団地」の記事を「はてなブックマーク」のホットエントリーで見かけることが多かった。この団地が記事になり注目を浴びる理由は、巨大な団地に住んでいる半数が中国人であり*1日本の移民問題についてのモデルケースとなり得るということが背景にあるからだろう。
しかし、この団地には単にそれだけではない魅力が隠されている。私は団地マニアではないし、外国人移民問題の取材や中華料理の食レポのためでもないのだが、その魅力によって、毎年のように芝園団地を訪れている。単に地元が蕨だからというのもあるのだが、*2それだけではなく、ここにくると何か異世界に来たみたいな感じがして子どもの時のようなドキドキとワクワクに包まれるからだ。
年に2、3回帰省すると必ず蕨市内を端から端まで散歩するのだが、その際に必ず芝園団地に立ち寄る。ちなみに、蕨市は日本で一番小さな市なので徒歩で市を端から端まで歩き回っても大した距離ではないんだヨ。
芝園団地の隠れた魅力とは
この団地の魅力は、あの大友克之が作品化している。大友克之作品『童夢』の舞台が芝園団地なのだ。当時、大友克之監督は芝園団地の側に住んでいたらしい。大友克之は『童夢』の1年後に『AKIRA』を描いている。当時、『童夢』は読んでいなくて知らなかったが、『AKIRA』は読んでいた。そして、芝園団地にどこか『AKIRA』の世界観を感じていた。だから、『童夢』と芝園団地について知った時は漫画の世界と現実が完全にリンクしてしまって、どうにかなりそうな気分になった。『童夢』はSF漫画なのに、団地という閉鎖空間で子どもと老人が超能力で殺し合いの争いを行うという不気味で恐ろしい雰囲気の漫画だった。正に私が芝園団地で遊んでいるときに感じていた異世界感が漫画の中にあった。自分の中で芝園団地はいつもの世界とは違う別世界として成り立っていた。大友克之もこの団地から感じたことを『童夢』に反映させたのだろうし、後に描いた『AKIRA』にも影響を与えたと考えると、本当にこと芝園団地の存在は考え深い。
マンモス団地内で変死事件が連続して発生。警察が捜査を進めるも手がかりは一向に掴めず、担当の刑事部長までが不可解な死を遂げてしまう。そんな中、一家で団地に引っ越してきたばかりの特殊な能力を持つ少女「悦子(エッちゃん)」は、団地内に住む老人「チョウさん」が超能力を悪用して殺人を行っていることに気付く。少女と老人、超能力者2人の対決はやがて団地全体を巻き込む惨事へと発展していくのだった。
薄れてしまった異世界感
そんな、異世界感を期待して毎年訪れているのだが、実は訪れる度に、それが薄れてきている。歩いていると中国語しか聞こえてこないので異国感はあるが、異世界感は薄い。特に、ここ数年で芝園団地からはおどろおどろしさが消えた。改修されてとても綺麗になっているし、治安も良さそう。いつの間にか、「URであ〜る」のUR住宅になっているので管理も住民の入居審査もちゃんとしてるんだろう。
なんで蕨・川口が外国人を惹きつけるのか
私は生まれも育ちも蕨。体感的に蕨周辺の日本人は外国人と共存することにそれほど抵抗がない気質があるように思っている。元々、日本人同士であっても格差が大きかったり、カタギではない人のベッドタウンとも言われていたような地域なので「自分と違う境遇の人」とコミュニケーションをとるのに慣れているからだと思う。そして、そんな土地柄、大宮や浦和よりも都心に近いのにも関わらず、治安が悪く地価が安かった蕨、川口に外国人が目を付けて移住したり不法滞在したりということが起きた。カルデロン一家問題も蕨で起きた事案だし、ワラビスタンと呼ばれるクルド人も多く居住している。
興味深いのは外国人比率が多くなって、体感治安が良くなっている点だ*3。この点も日本の移民問題について考えるモデルケースとして分析すると面白そう。
カルデロン一家問題(カルデロンいっかもんだい)は、2009年に日本で表面化したフィリピン国籍の一家の在留資格に関わる一連の問題。最終的には家族3人のうち、両親が自発的に帰国し、日本生まれの長女については当面の在留特別許可が与えられた。
一家とその支援者たちは名前を出して世論に訴えたため、メディアもこの問題を大きく取り上げたが、他方ではインターネット上に一家を批判するコメントも出現し、多様な立場からの議論を呼んだ。
在日クルド人の数はおよそ2000人とされる。特に埼玉県蕨市や川口市を中心とした埼玉県南部には、1990年代にトルコ政府の迫害を恐れたクルド人たちが友人を頼って来日し、トルコ国籍のクルド人の難民約1300人が集住している[3]。蕨市周辺はワラビスタンとも呼ばれている。
おどろおどろしかった異世界を感じられる芝園団地はもうないけど、これからも毎年訪れて芝園団地がどう変わっていくのかを見ていきたい。
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